第4章 「洗車広場」でコーティング

◆コーティングの準備 ≪水アカ落とし

   光男と裕太は、土曜の午前中、「洗車広場」で待ち合わせをしました。
   先に着いた光男は、すでに洗車を終わり、薄くメンテナンス剤を塗っているところでした。

裕太  「光男、遅れてごめん」

 

光男  「ああ、裕太。全然かまわないよ。
   今日は、デートの日じゃなかった?」

裕太  「うん。今日、車をキレイにしてから、明日、デート」

光男  「うらやましいね。
   じゃあ、混む前に洗おうか。洗い方は、覚えてるよね」

裕太  「だいたい・・・」

   2人は、「洗車広場」の手洗いブースで洗い始めました。
   今日は、裕太も少し慣れた手つきで作業をこなしています。

光男  「じゃあ、残った水分は、このクロスで拭こう」

裕太  「順平にもらったヤツだな。気に入った?」

光男  「うん、すごく。こんなに大きなクロスは売ってないから」

   水分の拭き取りを終え、光男は裕太の車のボディをチェックしはじめました。

裕太  「そんなにジックリ見られると、車が恥ずかしがるな・・・」

光男  「だいぶ傷んでいるけど、手入れすると、キレイになると思うよ」

裕太  「ほんと? どのくらいキレイになるか、楽しみだな」

光男  「まず、水アカを落そうか」

裕太  「この、黒い汚れね・・・」

光男  「コンパウンドでゴシゴシ落すのは大変だから、水アカ落としで落そう」


裕太  「えっ、水アカ落としって、前からあったっけ?」

光男  「いや、俺の車は黒だから、水アカ落としは使ったことないんだよ。
   今日のために買って来た」

裕太  「悪いね~」

光男  「じゃあ、説明書を読んで・・・必ず手袋をして使用することって」

裕太  「ああ、ビニール手袋が入ってるね」

光男  「かなりキツイやつなのかな?」

裕太  「これ、知らないの?」

光男  「うん、自分の車じゃないから、適当に安いやつを買って来た」

裕太  「怒るよ!」

光男  「でも、カーショップで変な物は売りっこないから。大丈夫だと思うよ」

裕太  「光男が嫌いなカーショップで?」

光男  「だから、自分のは買わないって」

裕太  「ハイ、ハイ。え~っと、本剤を添付のスポンジに筋状に付けて・・・ボディに薄くのばして、軽い力でこすります・・・  ハイ、こすりました。

   おお、キレイになってる」

光男  「この前は、コンパウンドでこすって落としたけど、この車全体をキレイにするには、こっちの方が早いと思ったんだよ」

裕太  「確かに、早そうだ。くたびれたら、替わってくれ」

光男  「大丈夫だよ。裕太はスポーツマンだから、この車1台くらい簡単に仕上げられるよ」

裕太  「いや、最近、腹が出てきて、前屈みがキツクっって・・・」

光男  「えっ」

   裕太の話は、ただの軽口ではないようで、ボディの下の部分を洗うときは、少し苦しそうでした。

裕太  「脚立の昇り降りも大変だよ」

光男  「独身で、そんなにでかい車を買うからだ」

裕太  「でも、そのうち結婚して、子供が3人できて、少年野球を始めて、チームのみんなを乗せて試合に行って・・・と考えるとねぇ」

光男  「何年後の話だよっ」

裕太  「人生なんてあっという間なんだよ。あっという間におじいさん」

光男  「ハイ、ハイ、浦島さん、作業の手を止めないで」

裕太  「はあ~、やっと終った」

光男  「すぐ水をかけないと、シミになるって書いてあったよ」

裕太  「み・つ・お~。一服させてよ」

光男  「じゃあ、水流ししておくか」

裕太  「お願いしまーす!」

   光男は水を流しながら、さらにクロスで拭きながら「すすぎ」をして、例のロングクロスでボディの水分を拭き取りました。
   水はじきしない、ベタベタのボディを見て、裕太が言いました。

裕太  「あれ~っ。この前、順平のスタンドでやったコーティングがなくなっちゃった!」

光男  「水アカ落としで落ちちゃったね。水アカ落としはアルカリ性で、油分を取るんだって。
   だから、手の油分も取っちゃうから、手袋をした方がいいんだよ。
   油を含んだコーティングも、水アカ落としで落ちちゃうらしい」

裕太  「あの水はじきは、油のせいだったのか~」

光男  「いや、サラダ油とかの油じゃないよ。
   油分を含んではいるけど、色々考えられた、いいコーティングだとは思うけど、少しずつ、大気の汚れや汚れた雨と一緒に汚れていくわけなんだよ」

裕太  「ふ~ん。でも、せっかくやったコーティングがなくなっちゃうのはさびしいな」

光男  「いまから、もっといいコーティングをするから・・・」

裕太  「うん・・・。  一服している間に見てたけど、すすぎって、水かけるだけじゃなくて、タオルで拭かなきゃダメなの?」

光男  「さっき言ったように、水アカ落としはアルカリ性で、ヌルヌルするんだ。
   このヌルヌルを完全に落としておかないと、コーティングがうまく乗らないんだ。
   顔を洗って、石鹸のヌルヌルが残っている上にお化粧するみたいなものなんだ」

裕太  「俺はお化粧しないけど、そういう例えなのね」

光男  「さあ、水アカ落としは終ったから、コーティングしようか」

裕太  「待ってましたっ!」

 

 

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